遺産分割協議が成立した場合の不動産の登記手続き
司法書士山本宣行のコラムです。
ご相談者の皆さまが疑問に思われるような法律手続きのお話しや普段聞き慣れない法律用語など身近な法律問題を取り上げて解説致します。
相続を原因とする不動産登記申請の特徴
不動産の名義変更に伴う登記手続きは、原則として登記権利者と登記義務者の共同申請によってなされますが、相続を原因とする不動産の名義変更手続きで故人名義から相続人名義への所有権移転登記については登記義務者を考えずに相続人からの単独申請が可能となります。
これは不動産登記の共同申請主義の例外である単独申請を認めても相続を原因として権利変動が生じたことが、相続関係を示す戸籍謄本等の公的な書面を提出して証明できるため、虚偽の登記申請が行われる可能性が少ないからと考えられます。
したがって、共同相続人のうち一人からでも相続を原因とする法定相続分での不動産の名義変更手続きは、保存行為として可能となります。
但し、この場合でも共同相続人全員の名義で相続登記を行わなければならず自己の法定相続持分だけの相続登記を行うことはできません。
(参考 民法252条但し書き、 昭30・10・15民甲第2216号回答)
上記のような特徴を持つ相続登記ですが、相続発生後、仮に故人名義の相続不動産を法定相続人が特定の相続人を単独所有とする内容の遺産分割協議を行った場合で既に法定相続分で共同相続人全員名義の相続登記手続きが行われている場合といまだ相続登記の手続きが何も行われていない場合を比較すると、登記手続きにどのような違いが出てくるのか下記で説明していきたいと思います。
法定相続の登記手続き後に遺産分割協議が成立した場合の登記手続き
事例 〇被相続人Aが平成29年1月1日に死亡し財産は甲不動産のみである。
〇法定相続人はAの子供であるB、C及びDの3名で甲不動産に関して法定相続分として
各3分の1ずつの登記手続きを行った。
〇平成29年12月1日にA所有の甲不動産について改めてBの単独所有とする内容の遺産
分割協議をB、C及びDの3名で行った。
上記事例では既に甲不動産に関して法定相続の名義変更登記がなされているため、結果としてB単独所有にするためにC及びDの持分をBに移転する旨の登記申請手続きを行うことになります。
ご注意頂きたいのは、この登記申請手続きはあくまで相続登記後に遺産分割を原因日付として権利の変動が生じているので相続を原因とする登記申請のように単独申請は認められておりません。
新たな権利変動から生じた移転登記として原則通り持分を取得するBを権利者、持分を失うC及びDを義務者とする共同申請によらなければならなくなります。
したがって登記の申請の際にはC及びDの3か月以内の印鑑証明書や相続登記を受けた際の登記識別情報が必要となります。
また1度法定相続で取得した持分を遺産分割で他の相続人へ移転する行為が税務的に見た場合に贈与とみなされ課税対象になってしまわないか税理士等の専門家に確認検討する必要もあるかと思われます。
登記の申請例は次のようになります。
甲不動産の登記記録例は次のようになります。
遺産分割協議が成立した後で初めて行う相続の登記手続き
事例 〇被相続人Aが平成29年1月1日に死亡し財産は甲不動産のみである。
〇いまだ相続登記は行われていなかったが、平成29年12月1日にA所有の甲不動産につい
てBの単独所有とする内容の遺産分割協議をB、C及びDの3名で行った。
記事例では遺産分割協議が成立した結果、甲不動産はBが単独で相続することとなったため、A名義からBへの単独名義とするBの単独申請による相続登記が可能となります。
ご注意頂きたいのは、登記の原因日付となりますが原因は「遺産分割」ではなく「相続」となり日付も遺産分割協議が成立した「平成29年12月1日」ではなく「平成29年1月1日」の相続発生日となります。
このような登記原因となるのは民法909条では遺産の分割は相続開始日に遡って効力を生じると定められておりAが死亡した時点で甲不動産をBが単独で相続していたことになるためであると考えられます。
実務では遺言書が無い場合や遺産分割で揉めているような特殊な場合でなければ、本事例の遺産分割協議が成立した後にその内容に従って初めて不動産の名義変更手続きを行うのが一般的です。
登記の申請例は次のようになります。
甲不動産の登記記録例は次のようになります。
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