遺贈する旨の遺言書による不動産登記手続きの注意点
司法書士山本宣行のコラムです。
ご相談者の皆さまが疑問に思われるような法律手続きのお話しや普段聞き慣れない法律用語など身近な法律問題を取り上げて解説致します。
遺言で遺贈した場合における包括遺贈と特定遺贈の違いとは
遺贈は財産の贈与を遺言により行うものですが、この遺贈には民法964条で包括遺贈と特定遺贈が定められています。
遺言の包括遺贈とは、相続財産の全部や相続財産の割合を定めた一部の財産を無償で与えるものでプラスとなる遺産だけでなくマイナスとなる債務も含まれます。
したがって、包括遺贈によって遺産を承継すると相続人と同一の権利義務を有することとなります。
(参考 民法990条)
包括遺贈に関しても民法915条で定める相続放棄の三か月の法定熟慮期間の定めと同様にその期間内に承認するか放棄をするかを検討しなければならないため注意が必要となります。
遺言の特定遺贈とは、特定の財産を無償で与えるもので民法986条1項での定めにおいて、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をすることができるとしています。
遺産に不動産があり、遺言を作成する際に「遺贈する」や「贈与する」という文言を使う場合には、遺言の効力発生後に行う不動産の名義変更における不動産登記原因は原則として「年月日遺贈」となります。
ただし、包括遺贈となるか特定遺贈となるかによって不動産の名義変更における登記原因に違いが生じます。
事例によっては登記原因を「遺贈」ではなく「相続」とする場合もあります。
登記原因を「相続」とする場合には、故人名義から相続人名義への所有権移転登記について登記義務者を考えずに相続人からの単独申請が可能となります。
登記原因を「遺贈」とする場合には、不動産名義を取得する受遺者を登記権利者、遺贈者を登記義務者とする共同申請によらなければならなくなりますので、申請構造が変わり登記申請の際に法務局へ提出する書類等も大きく変わってしまいますので注意が必要となります。
どのような場合に不動産名義変更の登記手続き上における登記原因に違いが生じてくるのか事例に分けて説明していきたいと思います。
遺言書の記載と登記原因
関係先例によると
事例①相続財産全部を受ける者が相続人全員で包括遺贈の場合
遺言の記載文言が「遺贈」であっても登記原因は「相続」となります。
相続人全員が割合で不動産の遺贈を受ける旨の遺言書の場合などが該当します。
(参考 昭38・11・20民甲3119)
事例②相続財産全部を受ける者が相続人中の一部の者で包括遺贈の場合
事例①と比較すると包括遺贈を受ける者が相続人全員ではないため相続分の指定又は遺産分割の方法の指定とみることは困難なため登記原因は遺言書の文言どおり「遺贈」となります。
(参考 昭38・11・20民甲3119)
同様の解釈で、公正証書の遺言で相続人全員へ各別に「後記物件を遺贈する」旨の記載がある場合における登記原因は「遺贈」となります。
(参考 昭58・10・17民三5987)
事例③相続財産全部を受ける者が法定相続人及び相続人ではない者で包括遺贈の場合
遺言の記載文言が「遺贈」であり、登記原因も「遺贈」となります。
事例①と比較すると法定相続人とは関係のない他人である第三者を含めて包括遺贈しても相続分の指定とみることが出来ないため登記原因は遺言書の文言どおり「遺贈」となります。
(参考 昭58・3・2民三1310)
上記①~③は遺言書の記載文言と登記原因の代表的な登記先例を挙げましたが、実際に遺言書を作成される場合には細かな記載文言などを意識されることは少ないかもしれません。
特にご自身で自筆証書の遺言を作成される場合には、一大決心のもと書籍のひな形など参考に記載されていることかと思います。
遺言の記載文言は手続きに影響してくる場合もあるため、専門家に相談のうえ確かな遺言書を安心して残して頂くことをお勧め致します。
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