不動産を時効取得した場合の不動産の名義変更手続き

司法書士山本宣行のコラムです。

ご相談者の皆さまが疑問に思われるような法律手続きのお話しや普段聞き慣れない法律用語など身近な法律問題を取り上げて解説致します。

不動産を時効取得すると

取得時効が完成すると民法144条では時効の効力として不動産を占有している者は占有開始時に遡って所有者であったことになると定めています。
つまり時効の権利取得の効果を生じるための事実状態を中断するような民法147条で定められている請求や差押え、仮差押え又は仮処分、承認といった事由がなく取得時効の要件に該当すれば不動産を占有している者は不動産の所有者に対し「時効取得」を原因として所有権移転登記を請求することが可能になります。
取得時効を完成するまでには民法162条に定める要件の1つとして善意かつ無過失の場合は10年で悪意又は有過失の場合は20年の占有を継続しなければなりませんが、この占有期間中に占有者が亡くなり相続が発生してしまった場合に時効の取り扱いはどのようになるのか説明をしていきたいと思います。

事例① 取得時効完成前における占有者に相続が発生してしまった場合の扱い

仮に占有者甲が乙名義のA不動産を有過失で占有を開始後、取得時効完成要件である20年経過前の時効期間中である15年後に甲が亡くなり甲の相続人である丙が単独でA不動産に関して甲の占有を承継し、さらに5年間の占有が継続した場合に丙が時効完成による所有権移転登記の請求は可能となるのかという問題があります。
この点に関して民法187条では占有の承継を認めており、占有権も物権のため相続の対象となるため、
相続人である丙は丙自身の占有期間と甲の占有期間をあわせて主張することが可能となり取得時効完成を援用することが出来ます。

上記事例で取得時効における所有権移転登記手続きをどのように行うか

上記事例で丙へ不動産を名義変更する場合の登記手続きに関してどのように行うかについては、以下の方法が考えられます。

1、亡き甲の最初の占有開始日を原因日付とする時効取得を登記原因として、いったん乙名義から亡き甲名義への所有権移転登記を行い、さらに亡き甲の死亡日を原因日付とする相続を登記原因として甲から丙へ相続による所有権移転登記を申請する方法。

2、亡き甲の最初の占有開始日を原因日付とする時効取得を登記原因として乙名義から現在の占有者である丙名義へ直接所有権移転登記を申請する方法。

1の方法の方が実体となる権利変動に一致していると思われますが、実務の扱いは、最初の占有者である甲名義へ変更することなく所有者乙名義から直接丙名義へ所有権移転登記の申請をする2の方法による手続きが認められています。
もし、甲の最初の占有起算日の時点で丙が生まれていなかった場合にも同様に上記2の方法で所有者乙から甲の相続人である丙名義に時効を原因として所有権移転登記を行うことが可能かという問題がありますが、そのような場合でも不動産の名義変更は可能であると解されているようです。

事例② 取得時効完成後における占有者に相続が発生してしまった場合の扱い

事例①とは異なり時効完成後において最初の占有者甲に相続が発生してしまった場合に取得時効における所有権移転登記手続きに関してどのような方法ですべきかということに関してですが甲が取得時効の援用をしていたか否かによって取り扱いが異なると解されます。

1、最初の占有者甲が時効を完成させて取得時効を援用していた場合

亡き甲の最初の占有開始日を原因日付とする時効取得を登記原因として、いったん乙名義から亡き甲名義への所有権移転登記を行い、さらに亡き甲の死亡日を原因日付とする相続を登記原因として甲から丙へ相続による所有権移転登記を申請することになります。
(参考 登記先例解説集211・102)

2、最初の占有者甲が時効を完成させて甲の相続人である丙が取得時効を援用していた場合

亡き甲の最初の占有開始日を原因日付とする時効取得を登記原因として乙名義から現在の占有者である丙名義へ直接所有権移転登記を申請することが可能であると解されています。
(参考 最判平成13・7・10民集55・5・955)

 

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