住宅ローンが残っている不動産を相続する場合の手続き
司法書士山本宣行のコラムです。
ご相談者の皆さまが疑問に思われるような法律手続きのお話しや普段聞き慣れない法律用語など身近な法律問題を取り上げて解説致します。
住宅ローンも原則として相続の対象となる
一般的な銀行の住宅ローンや提携のローンで不動産を購入する場合、ほとんどの購入者はローンの契約時に団体信用生命保険に加入しており、加入した場合で返済期間中に融資を受けた借主が亡くなると、保険契約に基づいて銀行が保険会社より残金を受け取り借入金に充当されるため、その後は債務が解除され相続人としてはローンの残債務を返済する必要がなくなります。
もし、団体信用生命保険の付いていない不動産を相続する場合には相続人が家庭裁判所で相続放棄などを行わない限り、住宅ローンの残金を返済する義務を負うことになってしまいます。
不動産の購入時に銀行から借り入れをすると抵当権という担保の登記が不動産になされるため、相続人が返済できない場合には銀行が抵当権の実行を行うことで時価よりも低い価格で競売されることとなってしまう場合があるため注意が必要です。
不動産に団体信用生命保険が付いているか否かにかかわらず、相続の手続きが必要となりますので、どのように相続手続を行うのか説明をしていきたいと思います。
不動産に団体信用生命保険が付いている場合
不動産に団体信用生命保険が付いている場合には、融資先銀行など金融機関の窓口へローン借主が亡くなり不動産を相続する旨を伝え確認がとれると相続人へ不動産に付いた抵当権を解除したことを証する関係書類が送られてきます。
この関係書類の中には抵当権の抹消登記手続きに必要となる住宅ローンの登記済みのハンコが押された金銭消費貸借契約書や登記識別情報、司法書士への抹消登記委任状などが同封されております。
相続人が不動産を売却したり、新たに不動産を担保に融資を受けるような場合には抵当権の抹消登記がなされていることが必要となるため抹消関係書類が届いたら速やかに登記申請を行うことをお勧めします。
実務では故人から相続人への所有権移転による不動産の相続登記申請と同じタイミングで抹消登記の手続きが行われることが一般的となります。
また不動産を法定相続人で共同相続した場合などは共有名義となった相続人の全員が抹消登記の申請人とならなければならないかという問題がありますが、共同相続人が登記手続きの権利者となるため、民法252条但し書きに該当すると考えられ、相続人の1人から他の共同相続人全員のために抹消の登記申請が可能となります。
反対に抵当権者を共同相続し抹消登記手続きに応じる場合は抵当権を失う立場となり、登記義務者となるため、処分行為と解され抵当権の共同相続人全員が登記義務者となります。
不動産に団体信用生命保険が付いていない場合
不動産に団体信用生命保険が付いていない場合には、抵当権の相続債務となります。
判例では金銭債務は可分債務と解され相続開始により当然に各相続人の相続分に応じて分割されるとしているため、遺産分割の対象とはならないと解すると考えられます。
(参考 最判昭和34・6・19、判時190・23)
ただし、実務では銀行などの抵当権者と交渉し、抵当権者の承諾を得たうえで、法定相続人が遺産分割協議により特定の相続人を債務者とした場合には、抵当権の債務者を変更する登記手続きが必要となります。
上記の判例に従えば債務者を法定相続人とする相続による変更登記申請を行ったうえで、債務を引き受けた者へ変更する手続きがさらに必要となりそうですが、登記先例では抵当権者の承諾を得たうえで、直接相続による特定の相続人を債務者とする変更の登記手続きができるとしています。
(参考 昭和33・5・10民甲964)
したがって、実務では債務も相続財産なので遺産分割の対象になると考えたうえで、遺産分割の対象になるならば民法909条の遡及効により遺産分割協議で決めた相続人が相続開始時に遡って抵当権の債務承継人となるため、直接「相続」を原因として抵当権の債務者変更登記が可能であると解しているようです。
通常の登記手続きでは不動産の所有権登記名義人が登記義務者となる場合には義務者となる者の印鑑証明書の提出が求められますが抵当権の債務者を変更する登記では不要となっています。
(参考 昭和30・5・30民甲1123)
なお、抵当権者である金融機関などが承諾したことを証明する書面は提出が求められます。
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