遺言作成時の確認ポイント

司法書士山本宣行のコラムです。
ご相談者の皆さまが疑問に思われるような法律手続きのお話しや普段聞き慣れない法律用語など身近な法律問題を取り上げて解説致します。

遺産分割に関する紛争事件は増加の傾向にあります。

(司法統計データによる調停事件の事件別受注件数より)

遺産分割の処分など 寄与分を定める処分
平成22年 11472件 767件
平成23年 11724件 818件
平成24年 12697件 847件
平成25年 12878件 750件
平成26年 13101件 745件
平成27年 12971件 691件

遺産分割に関する紛争で調停となる事件数は平成22年から平成27年の過去5年間件数を司法統計データで見てみると増加の傾向となっていることが分かります。
上記は家庭裁判所が遺産分割に関する調停事件を受注する件数ですが調停事件に至らないながらも相続人同士で揉めてしまい時間がかかるケースや揉めてしまったため手続きをストップさせたまま何もしないで放置されているケースなど想定出来るため非常にたくさんの方が相続人間のトラブルに巻き込まれ争続に発展してしまっていると予想することができます。
相続人間の争いごとになってしまう大きな要因の一つとして故人が生前にどの財産を誰に相続させるかをきちんと決めて相続人ときちんと話し合ったうえで遺言書を残しておかないことが挙げられます。
相続人間の遺産分割におけるトラブルは故人の生前の口約束での思い込みや遺言書が無いために故人の意思が分からず財産をどのように処分して良いか悩んでしまった相続人などから発生してしまうケースが多くあります。
財産の多い少ないにはあまり関係していないことも多くあるようです。
この遺言に関しては「遺言なんてたくさんの財産を持っている人がやることだから自分には縁起でもないし関係ないことだ」と考えている方もいらっしゃると思いますが10坪の土地でも100万の預貯金でも立派な相続財産です。
相続財産である以上は額の多い少ないに関係無く当然として相続手続きが必要となってしまいます。
この相続手続きは基本的には財産の大小で手続きが簡略出来る訳ではありません。
したがって残された財産が少なかったとしてもお金であることに変わりませんから相続人間で発生してしまう争いのリスクや相続手続きによる相続人の負担が変わりません。
遺言書はこのようなリスクの回避や負担を軽減出来る有効な手段となりますのでご自身のご家族のケースに応じて検討確認されておくことをお勧め致します。
また当然ではありますが意思能力がないとその遺言は無効となりますので病気になって慌てて作成しようとしても間に合わない場合もありますのである程度健康で意思がしっかりしているうちに遺言作成の検討をされておいた方が万が一の場合にご家族が安心出来ます。

遺言の作成にあたっての留意事項

誰が相続人となるのか確認する

まず自分自身が亡くなった場合に相続人の範囲が誰になるのかということが分かっていないと将来に起こる相続人の紛争リスクや問題点が予見できないため事前に確認しておくとよろしいかと思います
法定相続人はまず死亡した人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は第1順位から第3順位まで以下のように民法で規定されています。
なお、家庭裁判所に相続放棄をした人は初めから相続人ではなくなります。
内縁関係の人も法定相続人とはなりません。
余談ですが死亡した人のことを法律用語では「被相続人」と呼びます。

第1順位
死亡した人の直系卑属
被相続人に子供や孫がいる場合は被相続人により近い世代を優先しまずは子供が相続人となります。
もし既に子供が亡くなっている場合は次の世代となる孫が代襲相続人となります。
同様の事例で孫も既に亡くなっている場合はひ孫などの直系であるさらに下の世代の方が相続人となっていきます。(参考 民法887条)
このことを代襲相続といいます。
また子供には縁組をした養子も含まれ相続人となります。
養子縁組後に生まれた養子の子供は養親である被相続人の直系卑属となるため代襲相続が可能ですが、養子縁組前に生まれた養子の子供は被相続人の直系卑属とはならないため代襲相続が出来ないので注意となります。(参考 民法727、809条)
実子が他へ養子縁組に出された場合でも子供であることに変わりはないため相続人となります。
代襲相続と勘違いしてしまうケースで数字相続がありますので簡単に説明致します。
代襲相続は被相続人の死亡日より前に被相続人の子供が死亡したため孫などが相続するケースでしたが被相続人の死亡日より後に被相続人の子供が亡くなり亡くなった子供の配偶者を含めた法定相続人が相続するケースを数字相続といいますので区別して混同しないようにして下さい。

第2順位
死亡した人の直系尊属

被相続人に子供や孫などの第1順位の相続人である直系卑属がいない場合、被相続人の両親や祖父母などの直系尊属がいる場合は被相続人により近い世代である方を優先し被相続人の父母が相続人となります。
独身で若くして亡くなられるような場合は子供がいないため第2順位の相続となります。
被相続人の両親が幼少期に離婚して母親が親権者となり実の父親と別れ母親が再婚して新たな夫と連れ子となる子供が養子縁組しているようなケースで子供が若くして亡くなったケースを考えると被相続人の実の父親と養父と実の母親の3人が直系尊属となり相続人になってしまいます。

第3順位
死亡した人の兄弟姉妹

被相続人に子供や孫などの第1順位の相続人である直系卑属や両親や祖父母などの直系尊属がいない場合、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。
被相続人の死亡日より前に兄弟姉妹が死亡しているような場合は死亡した兄弟姉妹の子供(甥、姪)が代襲相続人となります。
第1順位の直系卑属である相続人の代襲相続とは異なり被相続人の甥姪の世代までの相続となり甥、姪が死亡している場合でもさらに甥姪の子供が相続人(再代襲相続人)となることはありませんので区別が必要となります。

相続人の調査

相続人の調査は市区町村役場で戸籍を請求する

戸籍は法令に基づいて編成され新たな戸籍が作成される際にその時点で在籍する人のみ新たな戸籍に記載されるため相続人を調査するためには被相続人となる者の出生~死亡までの戸籍を全て集めて確認する必要があります。
今現在の本籍地がある市区町村役場だけで目的とする「全て」の戸籍が取得できるわけではないということです。
幼少期の養子縁組、再婚や出身が地方の方など転籍を多くされているようなケースでは最後の住所を管轄する市区町村役場以外にも従前の登録されていた本籍地で除籍や改製原戸籍があるため戸籍(除籍・改製原戸籍など)は本籍地の役場の取り扱いとなりますので取得したい戸籍の本籍地を管轄する市区町村役場へ請求する必要があります。
戸籍の情報を読み解きながら従前の取得すべき戸籍の本籍地を調べていく必要があり人によっては遠方で戸籍の量が多くなることもあり煩雑となってしまうこともあるようです。

相続財産の確認

相続財産をあらかじめ確認しておくと将来揉めてしまう原因となる財産や相続税が将来どのくらいかかってしまいそうかもある程度予測可能となるため、計画的に財産処分や節税対策、相続人への対応が出来るようになります。
相続財産となる主要なものとして不動産、預貯金現金、有価証券などがありますが遺言書を書かない場合は全ての法定相続人で話し合いを行い、遺産分割協議を作成し署名捺印(実印)のうえ全員の印鑑証明書を用意して手続きを行う窓口に提出しなければならなくなります。
また保険金も受取人が自分自身になっている場合など相続財産となってしまうことをありますので遺言書の作成を検討する時に保険契約の確認をされておいた方がいいでしょう。
特に不動産は家族が住まいとして使用している場合には相続発生後に売却して換金することが難しい財産となります。
あらかじめ誰に相続させるべきかを決めて預貯金や保険金などで文句が出そうな相続人への配慮を検討して遺言を書いておくことで相続人同士のトラブルを未然に防げることがあります。

遺言を作成すべき人

相続手続きが煩雑となり相続人に負担がないように思いやる気持ちも大切

遺言書を書かない場合は故人の出生から死亡までの戸籍を収集し全ての法定相続人で話し合いを行い、遺産分割協議を作成し署名捺印(実印)のうえ全員の印鑑証明書を用意して手続きを行う窓口に提出しなければならなくなり残された相続人にとっては非常に負担となります。
遺言書を作成すべき代表例で下記を挙げましたがご自身の人生を振り返り遺言書を書かない場合にはどのような問題が発生し大事な家族が困ってしまうことがないのか思いやりや感謝の気持ちを込めてご検討されてみてはいかがでしょうか。

子供のいない配偶者がいる

配偶者に相続させたい場合には配偶者と被相続人の両親もしくは兄弟姉妹などとの関係を検討してみてください。
両親もしくは兄弟姉妹などに疎遠になって連絡が取れなくなっている人や認知となり遺産分割協議が出来なくなってしまっている人などはいないでしょうか。
例え関係が良好であっても被相続人の両親の出生から死亡までの戸籍を集めて兄弟姉妹を確定させることや遺産分割書に全員の署名捺印(実印)を貰うのは非常に負担となります。

内縁の妻または夫がいる

内縁関係にある場合は法律上の夫婦とはなりません。
法律上の権利が発生しないため基本的には遺産に関する手続きは何も出来ないということになります。
疎遠の相続人がいる場合には連絡をとって相続人に任せるしかありません。
相続人がいない場合には内縁として訴えることも可能ですが時間や多額の費用も発生し負担が大きいでしょう。

配偶者や子供がいないがお世話になっている人がいる

法律関係に無い他人でも遺贈させることは可能です。
法定相続人がたくさんいるが長男の嫁が介護な良く世話をしてくれたので財産を残してあげたい場合などには遺言書を残しておかれると良いでしょう。

相続財産となる不動産に二世帯の子供が住んでいる

不動産は家族が住まいとして使用している場合には相続発生後に売却して換金することが難しい財産となります。
生前の口約束だけにしていると他に遠方で暮らしている子供が生前は納得していても相続発生後に考えが変わり不動産を相続した相続人が他の相続人から不動産の代わりに相続分相当の金銭を要求され支払いが出来ずトラブルとなる事例も少なくありません。
相続人同士が争うことのないよう遺言者の作成その他の方法で生前に対策を立てる必要があります。

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相続手続きは多くの方の人生にとって数回あるかないかの手続きかと思います。
故人に対する悲しみも消えない中で手続の窓口に行くと専門的な用語や慣れない煩雑な手続で肉体的にも精神的にもさらに負担がかかってしまいます。
当事務所では、慣れない遺言作成はもちろんのこと相続手続き全般と幅広く対応しており相続人皆さまの負担を少しでも軽くなるよう、初回無料相談を設けておりますのでお気軽にご利用下さい。

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