遺言書が複数ある場合の取り扱い
司法書士山本宣行のコラムです。
ご相談者の皆さまが疑問に思われるような法律手続きのお話しや普段聞き慣れない法律用語など身近な法律問題を取り上げて解説致します。
遺言書が複数ある場合とは
遺言書は書く人の自由な意思によって作成することが可能なため1通だけしか遺言書を書けないというものでもありません。
人間であれば感情で想いが変わり遺言書を書き直すことも珍しいことではありません。
問題となるのは亡き後に内容の変わる遺言書が複数残されていると相続人にとってはどのように対応していいか戸惑ってしまうこともあるかもしれません。
また遺言書が残されている場合でも相続人の話し合いで遺産分割をしたい場合や逆に遺産分割協議を終えた後に遺言書が発見されるケースもありますので、ケースに応じた取り扱いについて説明をしていきたいと思います。
①直筆の遺言書が複数出てきたケース
人間であれば感情で想いが変わり遺言書を書き直すこともあるかと思います。
もし複数の遺言書が残されていると内容自体が抵触しているか否かを確認しなければなりません。
内容が抵触していないならば、それぞれの遺言書を使い不動産の相続登記や預貯金や株式などの解約手続き、名義変更手続きといった相続手続きを進めていくことは可能となります。
内容が抵触する場合には、民法1023条で「前に作成された遺言が後に作成された遺言と抵触するときは、その抵触する部分については前に作成された遺言を撤回したものとみなす」と定めております。
遺言の撤回とみなされるものとしては遺言方式に従ってなされた後の遺言書で前の遺言書を撤回する旨の記載をすることや、遺言書を書いた後の生前における対象財産の処分行為や書いた直筆の遺言書の文面に故意に斜線をひくなどの遺言書を破棄する行為などがあります。
したがって仮に平成28年1月1日に長男Aに一切の財産を相続させる旨の遺言書が残されていても平成29年1月1日に次男Bに一切の財産を相続させる旨の遺言書が出てくれば、新しい日付けの遺言書が優先され次男Bが相続権を取得することになります。
遺言書の形式的な有効条件の1つとして具体的な日付けの記載が求められているのは、このように遺言書が複数出てきた場合において優先順位が分かるようにするためともいえます。
(参考 民法968条1項)
ただし複数の遺言書があり、内容が抵触する古い日付けの遺言書が撤回されたものとみなされた場合でも、遺留分の権利が発生する場合には民法で定められた権利を主張できるため注意が必要となります。
(参考 民法1028条)
②公正証書で作成した遺言書と自筆の遺言書が出てきたケース
公証役場で作成する遺言書は公証人の手数料や専門家に依頼する場合の費用手間がかかりますが、公証人と証人2名立ち合いのもと本人の意思能力を確認して作成いるため相続人間で無効を争われる可能性が少ないうえ、相続発生後に家庭裁判所で検認手続きの申立てが不要となりますので、メリットも高いものとなります。
したがって直筆で書いた遺言書より、客観的に証明力も高いともいえそうですが、公正証書の遺言書を作成した後に気が変わり、公正証書と内容の抵触する自筆の遺言書が新しい日付けで作成された場合で民法上の形式的な条件が具備されていれば、上記①のケースと同様に新しい遺言書の方が優先されることになります。
(参考 民法968条1項、1004条1項)
遺言書がある場合の遺産分割協議について
基本的に遺言書は故人の自由な意思により書かれたものなので、故人の意思を尊重するのが好ましいといえますが、残された遺言書の内容によっては不明確な表現があり解釈に困る場合や、記載されている配分が不平等なため相続人間で揉めたくないといったケースもあるかと思います。
このような場合には相続人全員の自由な意思によって残された遺言書の内容と異なる遺産分割協議で配分を決めるのは可能とされています。
ただし、法定相続人が1人でも欠けていたり同意を得られなければ遺言書の内容に従わなければなりません。
また遺言書に遺言執行者が定められている場合には同意が必要となります。
このことは遺産分割協議を行った後に遺言書が見つかった場合でも考え方は同じとなりますが、遺言書の内容をみて遺産分割協議にいったんは同意した相続人が考えを改めて異を唱えてくる場合には再分割する協議も必要となるでしょうし、場合によっては争いに発展するケースも考えられますので注意が必要となります。
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