農地移転に伴う許可と届出
司法書士山本宣行のコラムです。
ご相談者の皆さまが疑問に思われるような法律手続きのお話しや普段聞き慣れない法律用語など身近な法律問題を取り上げて解説致します。
農地の贈与をした場合の名義変更はどのように行うのか。
農地について贈与を行う場合には原則として農地法の許可を検討しなければなりません。
田畑などの農地は宅地と異なり贈与する場合は事前に農業委員会での手続きが必要となるからです。
ちなみに農地法で定める「農地」とは耕作の目的に供される土地をいいます。
土地に労費を加え肥培管理や作物を現に栽培されているほか、現に耕作されていなくても客観的に見て耕作の目的に供されるものと認められる休耕地や不耕地なども含まれるとしています。
したがって農地に該当するかの判断はその土地の登記簿の地目だけでなくその土地の現況により判断されることになります。
農地法の許可は生前贈与以外にも死因贈与、売買、交換、共有物分割、信託などでも必要となります。
相続を原因とする場合の取得は被相続人の死亡の事実により当然生じるもので権利移転のための行為があるわけではないため行政処分の対象とならず農地法の許可は不要です。
なお、平成21年の農地法改正で相続による農地や採草放牧地の権利取得は原則としてその有する市区町村の農業委員会にその旨の届出が必要となりました(参考 農地法3条の3)。
農地を生前贈与する場合は以下の農地法3条、4条、5条に分けて農地法の規制を考えていきます。
(1)農地法3条
農地を権利移動させる場合
権利移動とは自分の農地である所有権を他人に移転させることをいいます。
移転以外にも地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利や賃借権などの使用収益を目的とする権利の設定も対象となります。
抵当権は含まれていません。
(2)農地法4条
農地を転用させる場合
自分の農地を農地以外の土地にすることをいいます。
農地を採草放牧地に転用する場合も含まれます。
(3)農地法5条
農地を転用目的で権利移動させる場合
自分の農地を農地以外の土地にするため所有権を他人に移転させるなどの権利移動をすることです。
採草放牧地を採草放牧地以外の土地(農地を除く)に転用する場合も含まれます。
(農地法3条、4条、5条の規制)
農地法3条の規則 | 農地法4条の規則 | 農地法5条の規則 | ||
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許可 | 原則 | 農業委員会 | 農業委員会経由で都道府県知事 | 農業委員会経由で都道府県知事 |
例外 | 都道府県知事 個人の住所地の市区町村以外で権利を取得する場合 |
農林水産大臣 転用する農地が4haを超える場合 |
農林水産大臣 取得する農地が4haを超える場合 |
|
特則 市街化区域内 |
特則なし | 事前に農業委員会へ届出で許可不要 | 事前に農業委員会へ届出で許可不要 | |
罰則 | 3年以下の懲役または300万円以下の罰金 |
農地の贈与で不動産名義変更をする場合に必要となる書類
法務局に登記申請する場合の一般的な書類
なお、農業員会での許可手続きが必要となる場合は行政書士の業務となりますので当事務所では手続きを代行出来ません。
- 登記原因証明情報(贈与契約書)
- 贈与の対象となる農地の権利証(登記識別情報)
- 贈与する方の3か月以内の印鑑証明書
- 贈与を受ける方の住民票
※なお、贈与する方の登記簿上の住所と現在の住民票が異なる場合はつながりが分かる贈与する方の住民票も必要になり住所変更登記が移転登記と一緒に必要になります。 - 固定資産税の評価証明書
- 農地法所定の許可書または届出書
農地法の許可が必要な場合の原因日付について
贈与契約成立後に許可があった場合
登記の先例では農地法の許可書が到達した日を登記原因の日付とすべきとしております。
(参考 昭和35・10・6民甲2498)
したがって贈与契約日が平成28年1月1日で農地法の許可書の到達日が平成28年2月1日の場合は登記の原因日付は「平成28年2月1日」となります。
なお、農地法の許可後に贈与契約が成立した場合に贈与契約に所有権移転時期について特約がないときは所有権移転の効力は贈与契約日に発生することになります。
市街化区域内で届出を農業委員会へ提出する場合は届出の効力が発生するのは農業委員会が届出受理を決定した日ではなく適法な届出が農業委員会に到達した日となります。
(参考 農地法規則31条 昭和61・8・20民三6437)
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