不動産などを生前贈与し特別受益となる場合
司法書士山本宣行のコラムです。
ご相談者の皆さまが疑問に思われるような法律手続きのお話しや普段聞き慣れない法律用語など身近な法律問題を取り上げて解説致します。
故人が生前に不動産などの財産を贈与した場合の扱い
現行制度では配偶者へ不動産などを贈与した場合でも、相続人間で争いが生じると遺産分割の対象となるためせっかく生前贈与しても、遺産分割のために他の相続人から居住不動産の売却を迫られ手放さなければならないような事例も少なくないようです。
今後はさらに高齢化が進んでいくためにこのような問題が増えていく見通しを懸念して法制審議会では遺産分割の規定を見直す試案をまとめ、法務省で8月上旬から意見公募を実施し年内に要綱案をまとめて来年の通常国会で民法改正案の提出を目指すという記事が出ておりました。
試案では条件などがあるようですが配偶者に居住用不動産を贈与した場合その他の財産を遺産分割の対象として結果的に配偶者の取得財産を増やし生活を安定させていく方向のようです。
近年では再婚なども多くなり結婚生活も多様化している中で親子の関係も複雑化してきており、遺産分割においても不本意ながら揉めてしまう可能性が増えております。
来年の民法改正案がどのようになるのか関心が高まるところではあります。
今回のコラムでは故人が生前に婚姻や養子縁組もしくは生計の資本として金銭や不動産などの財産を贈与や遺贈することにより、故人が亡くなったあとで特別受益とみなされる場合についてふれてみたいと思います。
特別受益者については、相続開始時に現存する相続財産に相続人が受けた贈与額を加算した「みなし相続財産」から法定相続人の相続分を算定し特別受益者が受けた贈与又は遺贈の価額を控除して各相続人の具体的な相続分を算出するような取り扱いとなっております。
このように特別受益とみなされた贈与財産は相続発生時の相続財産に考慮されてしまいますが、被相続人が特別受益の持戻し免除の意思表示をしていた場合については、どのような扱いとなるか以下で説明していきます。
特別受益の持戻し免除の意思表示の効果
事例 父が亡くなり法定相続人が長男と長女の2名の場合で生前に長男が父から不動産の贈与
を受けている場合
上記のような事例で被相続人である父が特別受益の持戻し免除の意思表示をしていた場合は、民法903条3項ではその意思表示は遺留分に関する規定に違反しない範囲内で効力を有すると定めております。
つまり、本来の相続分の他に特別の利益を特定の相続人に対し与える権限を被相続人に認め、故人の意思を尊重させるものとなります。
意思表示の方式
意思表示の方法としては特別な方式は要求されておりません。
書面などで明らかな意思表示をすること以外にも間接的に意思表示をしたとみなされる場合には裁判などで主張が可能となります。
生前贈与ではなく遺贈による場合は学説が分かれており、遺贈自体が法律上一定の定められた方式に従う要式行為であるため特別受益の持戻し免除の意思表示も遺言の方式で意思表示をなされる必要があるというのが多数説のようです。
特別受益の持戻し免除の意思表示の有無の判断
実務上で争いがある場合は、書面などで明らかな意思表示が明示されているケースのような事例はともかくとして、間接的な意思表示があったと主張可能な黙示的な場合に特別受益の持戻し免除の意思表示が裁判上認めれるか否かが問題となります。
判例によると黙示の持戻し免除の意思表示を認めるにあたっては、他の相続人より贈与相当額の利益を多く取得させることに関して合理的な事情が必要であるとされています。
(参考 平12・3・8家月52・8・35)
したがって意思表示の有無などは以下のような諸般の事情を考慮して判断されることになります。
〇贈与の内容や価額、動機など
〇被相続人と受贈者や他の相続人との生活関係、職業、経済及び健康状態など
〇他の相続人が贈与を受けている場合の内容や価額など
ご注意頂きたいのは黙示の意思表示が認められた場合でも遺留分に反することはできないため、生前贈与をなされる方はあらかじめ遺留分を考慮して、他の相続人への配慮となる財産の確保や対策などをしっかり立てておく必要があるかと思います。
親が子供に対して思う悩みや心配ごとは、いつまでもなかなか尽きないものです。
黙示の意思表示の認定に関しては判例のいくつかを下記に記載しますので参考にしてみて下さい。
黙示の持戻し免除の意思表示を認めた判例
被相続人が生前に子供である三男に農地その他の不動産を贈与した事例
認めるのが相当と判断なされたポイント
〇家業である農業を被相続人と同居して農耕に従事してきた三男に継がせる意思があったこと。
〇日付記載のない自筆遺言書としては効力のない書面に全財産を三男に譲渡する旨の記載があること。
上記は家業である農家を三男に継がせるためにどうしても相続分以外の農地などの財産を相続させる必要があった事例となります。
(参考 福岡高決昭45・7・31判タ260・339)
被相続人が生前に子供である長女に宅地を贈与した事例
〇被相続人の長女が強度の神経症で独身のまま両親の庇護のもとに生活してきた者であったこと。
〇今後も独立して生計を営むことを期待することが困難な心身状態にあること。
上記は長女に特別な事情があり相続分以上の財産を必要としていた事例となります。
(参考 東京高決昭51・4・16判タ347・207)
黙示の持戻し免除の意思表示を認めなかった判例
贈与相当額の利益を他の相続人より多く取得させるための合理的な事情が足りないため、認められなかった事例
上記は民法903条3項では被相続人の特別受益の持戻し免除の意思表示を定めているのは、特別受益がある場合に共同相続人間の公平を図るために民法903条1項で持ち戻しをすることを原則とする例外規定のため、黙示の意思表示を認定するためには、一般的にみても是認させるに足りる積極的な事情が必要であったとされた事例となります。
(参考 平12・3・8家月52・8・35)
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