再転相続が発生した相続放棄
司法書士山本宣行のコラムです。
ご相談者の皆さまが疑問に思われるような法律手続きのお話しや普段聞き慣れない法律用語など身近な法律問題を取り上げて解説致します。
相続放棄の申述は増加の傾向にあります。
(司法統計データによる家事審判の事件別受注件数より)
相続放棄の申述 | 熟慮期間の伸長 | 限定承認の申述 | |
---|---|---|---|
平成22年 | 160293件 | 6150件 | 880件 |
平成23年 | 166463件 | 7014件 | 889件 |
平成24年 | 169300件 | 6694件 | 833件 |
平成25年 | 172936件 | 6838件 | 830件 |
平成26年 | 182089件 | 7028件 | 770件 |
平成27年 | 189381件 | 7399件 | 759件 |
相続放棄申述受理件数は平成22年から平成27年の過去5年間件数を司法統計データで見てみると毎年増加していることが分かります。
相続が発生して財産を調べてみると借金などのマイナスの財産がプラスの財産より多い場合は相続放棄を検討して速やかに家庭裁判所に申立てしていく必要があります。
申立ての期限に間に合わないと相続人が被相続人の多額の借金を負担することになってしまいます。
相続放棄には三か月の期限や条件もあるため、必ず放棄の申立てが認められる訳ではありません。
注意すべきポイントなど専門家からのアドバイスでスムースに手続が進む場合が多くありますので相続放棄を検討されている方はお早めに相談確認されておくことをお勧め致します。
再転相続について
再転相続の発生するケース
再転相続という言葉はあまり聞き慣れない言葉かと思いますが相続放棄の場合に再転相続が発生するケースがあるため説明させて頂きます。
仮に甲という人が亡くなり子供の乙が相続人となる場合のケースを考えます。
甲には多額の借金がありますが子供の乙は幼少期に母親が離婚して父親である甲と生き別れてしまいました。
子供の乙は父親である甲が亡くなってしまった事実も知らないまま甲の相続の承認・放棄もしないまま亡くなってしまい甲にとっては孫となる乙の子供である丙がさらに相続人となった場合を再転相続といいます。
熟慮期間の判断
民法916条は相続人が相続の承認・放棄をしないで死亡したときの熟慮期間はその者の相続人(再転相続人丙)が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算すると規定しています。
これは丙が乙の甲に対する相続人の地位を引き継いだことによって乙の熟慮期間内に甲の相続の承認・放棄をしなければならないことになり丙にとっては不利益となってしまうことがないように定めています。
再転相続人の承認・放棄の選択
再転相続人である丙としては最初に発生した(1)亡き甲の相続と次に発生した(2)亡き乙の相続に関して承認・放棄の選択をすることになりますが丙が選択する先後の順番や内容が問題となりますが選択のパターンとして以下が考えられます。
選択のパターン
A:丙が(1)甲の相続を先に承認するパターンでは丙は(2)乙の相続について承認または放棄がどちらもできます。
上記の丙が(1)甲の相続を先に承認するパターンでは丙は(2)乙の相続について甲の財産が含まれ承認または放棄がどちらもできます。
※学説等の理論構成となるため誤解を生じ易いですが乙の相続について承認又は放棄の対象として甲の財産が含まれる以上、乙の放棄を選択することで甲についても放棄したことと同様になり甲のみの財産を承認(相続)することは出来ないという結論となります。
B:丙が(1)甲の相続を先に放棄するパターンでは丙は(2)乙の相続について承認または放棄がどちらもできます。
上記の丙が(1)甲の相続を先に放棄するパターンでは丙は甲の財産が含まれず(2)乙の相続についてのみ承認または放棄がどちらもできます。
また丙は(2)乙の相続について放棄したとしてもそれにより再転相続人の地位に基づいてなした甲の相続放棄の効力が遡って無効となりません。
これは乙の債権者にとっては丙が甲の相続を放棄し乙の相続も放棄した場合には乙固有の財産のみしか債権が回収出来なくなるということになります。
( 参考 昭和63・6・21最判 家月 41・9・101、 金法 1206・30)
C:丙が(2)乙の相続を先に承認するパターンでは丙は(1)甲の相続について承認または放棄がどちらもできます。
D:丙が(2)乙の相続を先に放棄するパターンでは丙は(1)甲の相続について承認及または放棄がどちらもできません。
上記のパターンでは丙は(1)の甲の相続について承認または放棄の選択権を失い承認または選択する余地が無くなります。
上記選択パターンを図にしてみると以下のようになります。
(※Aは結論としては乙が放棄することで乙の相続について承認又は放棄の対象に甲の財産も含まれることになるため甲のみを相続することは出来ないことになります。)
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