親子が不動産を生前贈与する場合の特例

司法書士山本宣行のコラムです。
ご相談者の皆さまが疑問に思われるような法律手続きのお話しや普段聞き慣れない法律用語など身近な法律問題を取り上げて解説致します。

親から子供や孫への不動産贈与について

親名義の土地や建物などの所有不動産について本人が亡くなった後で法定相続人が遺産分割などにより相続による不動産の名義変更を行う場合が一般的には多いかと思われます。
これは不動産を生前贈与した場合には贈与税をはじめ贈与にまつわる税金が相続よりも高くなるためであると考えられます。
しかしご家庭の事情によっては親が元気なうちに子供や孫に不動産を贈与して活用させてあげたいといった意向や相続後に遺産となる不動産を巡る相続人同士の紛争性が予想される場合などに、あらかじめ不動産を贈与して名義を子供に移しておいた方が確実に見届けられる安心できるといった意向など様々なケースで土地や建物などの不動産の生前贈与を行いたいと思われる方も少なからずいらっしゃるかと思います。
そこで親から子供や孫への不動産を贈与する場合に贈与税の特例として大きな贈与税の負担を軽減できる相続時精算課税制度という特例がありますので簡単に知っておくべきポイントを説明していきたいと思います。

通常の生前贈与をしてしまうと多額の贈与税が発生してしまう

特例制度を利用せずに通常の生前贈与をしてしまうと個人が1年間(1月1日から12月31日まで)に贈与を受けた財産の合計額から基礎控除額(110万円)を差し引いた残額に対して課税されます。
贈与税の最高税率は55%と非常に高いものとなりますで安易に行うとせっかく贈与を行っても税金ばかりかかってしまい本末転倒となってしまいそうです。
下記は参考までに贈与税の課税率早見表となります。

相続時精算課税制度の効果と適用条件

(効果)
まず相続時精算課税制度を活用することで不動産を生前贈与した場合には贈与不動産の評価額から2500万円を控除することができるため2500万円部分は課税されず超える部分についての 一律20パーセントの贈与税で済みます。
贈与税を納めた場合には相続税額からその贈与税額に相当する金額を控除した金額が納付すべき相続税額となります。
その際に相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額については相続税の申告を行うことで還付を受けることが可能です。
(参考 相続税法21の15③、21の16④、33の2①)
また贈与財産の種類、金額、回数に制限がありません。
養子も実子と同様に利用可能です。

(適用条件)
 贈与者と受贈者に条件がありますので誰でも利用出来る訳ではありません。
(税制改正前)
 贈与者  贈与をした年1月1日において65歳以上の父母
 受贈者  贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の贈与者の推定相続人   
(平成27年税制改正後)                                                                           
 贈与者  贈与をした年1月1日において60歳以上の父母または祖父母 
 受贈者  贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属(子や孫)である
      推定相続人又は孫  

相続時精算課税制度の利用には注意が必要!!

注意ポイント

相続時精算課税制度の効果には贈与税の負担を大きく軽減する効果がありメリットとなりますが忘れてはならないポイントを下記に挙げましたので確認のうえ、制度を利用すべきか検討してみて下さい。

①相続時精算課税を選択した場合は贈与者が亡くなるまで適用され暦年課税との併用や途中から暦年課税に変更することは出来ません。

②贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に納税地の税務署に一定の書類とともに「相続時精算課税選択届出書」及び「贈与税の申告書」を提出しなければなりません。
納税額が発生しない場合でも申告する必要があります。
提出期限までに上記の書類を提出申告しなかった場合には相続時精算課税の適用を受けることが出来ませんので注意が必要です。

③贈与財産は相続発生時に改めて相続税の課税価格に参入されることになります。
したがって相続税の節税対策になるものではありません。
ただし、贈与時の価額で相続時に計算するため、不動産や株などで将来値上がりが予想される財産の贈与には相続税対策となる可能性も考えられます。
また贈与財産は相続税が発生した場合の物納財産の対象外となります。

④贈与税財産の値上がりがあると相続発生時に改めて贈与時の価額で相続税の課税価格に参入される結果として増税となってしまうことがあります。

⑤贈与財産は相続税の課税価格の計算の特例である小規模宅地の特例を受けることが出来なくなります。


特例制度の条件やメリット・デメリットを理解し将来を想定したうえで選択しないと税金で損をしてしまうこともあるため事前に専門家である税理士にアドバイスなどを受けて選択された方がよろしいかと思います。
当事務所ではご要望があれば税金の専門家である税理士を紹介させて頂くことも可能です。

相続時精算課税制度のまとめ

特例制度の効果や適用条件や注意ポイントを理解し将来を想定したうえで選択しないと税金で損をしてしまうこともあるため、利用するうえで疑問点や不安などがある場合には必ず事前に税務署や専門家である税理士などにアドバイスを受けて選択された方がよろしいかと思います。

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